防災士インタビュー

松本泰さん

お仕事の内容をお聞かせください

防災における拡声放送システムのエンジニアリングを担当しています。

ご自身で被災された経験がありましたら、差支えのない範囲でお聞かせ願えますか

阪神・淡路大震災で神戸の実家が全壊しました。震災翌日に歩いて神戸に入り両親の無事を確認しました。慣れ親しんだ街が想像しがたい状況なっているのを見て愕然としました。

防災士の資格を取得して得たことを、どのように職務や地域での活動に役立てようとされていますか

防災の知識と、これまでに仕事で培った音の専門知識を組み合わせ、独自の提案をしたいと思いました。いわば「音響防災士」ですね。
音は、不特定多数の人に一瞬にして情報を伝達します。例え相手の注意が逸れていても、目を閉じていても、後ろを向いていても「伝える」ことができます。こうした特性から、危険を知らせる手段として古くから音が用いられてきました。人は災害状況を「知る」ことで、初めて避難行動を起こすことができます。つまり、「伝える」ことは防災の基本であり、それを音で実現することができるのが「音響防災士」だと思っています。

現在、実際に取り組まれていることがありましたらご紹介ください

所属するTOAは、業務用音響機器の専門メーカーとして、古くから公共空間の「音づくり」に携わってきた会社です。私は仕事として、自治体における災害情報伝達システムの構築に力を注いでいます。
現在、自治体における代表的な伝達手段は「防災行政無線」です。これは無線を利用して自治体内に点在するスピーカーから音声情報を拡声するシステムで、設置率は全自治体の8割近くに上ります。しかし、3.11を機に、防災無線が「聞こえない」との報告が多発しています。原因の一つは、従来型スピーカーの性能限界でした。一般的な防災用スピーカーが十分な音圧を確保できる到達距離(カバーエリア)は約300mです。自治体全域で一定以上の音圧を確保するため、現状では到達距離以下の間隔でスピーカーが多数設置されています。そのため、カバーエリアが重複する付近で、複数のスピーカーから出た音が重複し、輪唱のように響いて言葉が判別出来ない現象が起こっています。つまり、防災行政無線が「聞こえない」のではなく、「聞こえているが、内容が聞き取れない」ことが課題だったのです。
TOAは、こうした現状に対し、従来の3倍以上、1kmを超える到達距離を実現した「ホーンアレイスピーカー」を提案しました。音が減衰しにくい特性を持ち、あまり音量を上げなくても遠くまで音が届くことから、スピーカー直下でもうるさくありません。カバーエリアが拡大すれば、それだけスピーカー設置本数が減り、課題とされていた音の重複が解消し、聞こえやすさが向上します。また、これまで設置が困難であった場所へも、離れた場所から音を到達させることが出来ます。加えて音は、復旧作業中に避難場所や支援物資の状況を都度伝達する、情報のライフラインとなります。混乱した状況だからこそ、確実に、誰にでも、迅速に同じ情報を伝えることができる拡声放送のメリットが、今、見直されつつあると言えます。

今後の課題、抱負をお聞かせください

災害時における拡声放送の使命とは、音で命を守ることです。災害そのものを防ぐ力は無いかもしれませんが、音で救える命があります。災害自体は止められなくても、被害を少なくすることは出来るのです。『減災』を胸に、音による安全・安心を提供したい。そう心から思わずにはいられません。

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