防災士インタビュー

福島隆史さん

お仕事の内容をお聞かせください

東京のテレビ局TBSで災害担当の記者をしています。普段は主に災害や防災に関する取材を行っていますが、災害発生時にはスタジオで解説するほか、取材態勢やオンエア対応、取材に携わるスタッフの安全管理等について判断・助言をします。

ご自身で被災された経験がございましたら、お聞かせください

私自身は直接被災した経験はありませんが、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、東京・赤坂の本社で3人の負傷者が出ました。震源から遠く離れた場所にもかかわらず、です。頭の中ではわかっていたつもりでしたが、高層ビルの上層階は長周期地震動で何分たっても揺れが収まらない、ターミナル駅周辺は帰宅困難者で溢れる、コンビニやスーパーからミネラルウォーターや食料品がたちまち消え失せる…等の光景を目の当たりにして、とても大きな衝撃を受けました。その後、2012年には宮城県気仙沼市の支局に赴任しました。東日本大震災の被災地で実際に生活しながら大勢の被災者と会って話を聞き、復旧・復興が思うように進まない過酷な状況を間近で見たことは、災害担当記者として何にも代えがたい貴重な経験となっています。

なぜ防災士の資格を取得しようと思われましたか

防災に関する仕事に携わっているので、防災士にはもともと関心がありました。けれども仕事が忙しいことを言い訳に、研修講座を受けるのは面倒くさそうで敬遠していました。一歩前に足を踏み出したきっかけは東日本大震災です。それまで災害取材を長く続けてきて、災害や防災についての知識や経験は十分あると自負していました。ところが、いざ大震災を前にすると、私にとっても想定外のことがたくさんありました。それはつまり、私自身が、人為的に与えられた知識(想定)にとらわれていたことにほかなりません。自分の持っている知識は本当に正しいのか。常識と思い込んでいることが、実は時代後れになっていないか。最新の知見を見過ごしていないか。自分の知識や考え方を再確認する良い機会になると考え、受講を決めました。

          

防災士の資格を取得して得たことを、どのように役立てようとされていますか

ゲリラ豪雨に象徴されるように、最近、雨の降り方が極端化しています。雨だけでなく、近年の気象現象は過激化・凶暴化の一途をたどっているようにみえます。こうした中、災害取材の手法が10年前や20年前と同じままで通用するとは思えません。いつか重大な事故が起きるのではないかと内心ハラハラしています。ですから災害現場において、カメラマンや記者が安全をしっかり確保した上で取材すべきものをきちんと取材できるように、防災士としての知識やノウハウを活かせればと考えています。もちろん、番組づくりにも。

          

実際に取り組まれていることがありましたらご紹介ください

2011年3月11日、岩手・宮城・福島で取材していたTBSや系列局のスタッフの中に、ひょっとしたら命を落としていたかもしれない状況にいた人が何人もいました。東日本大震災に限らず、災害取材は常に死の危険と隣り合わせにあります。決して大げさではありません。そこで、スタッフには身の安全を守る具体的な方法として「科学的・客観的な物差し」と「感覚的・本能的な物差し」の2つの物差しを活用するよう指導しています。簡単に説明すると、気象庁や国土交通省が発表する最新の防災情報や現地のハザードマップなどを入手して自分たちが置かれている状況を客観的に把握する一方、五感をも駆使して異変を感じたら躊躇せずただちに安全な場所へ移動せよ、というものです。このほか、スタッフが危険に遭遇した事例について情報を共有したり、対処法を学ぶ勉強会なども開催したりして、自分や仲間の安全を守ることに役立てようとしています。

今後の課題、抱負をお聞かせください

東日本大震災の発生以降、「知識の防災」の限界が指摘されています。与えられた知識が災害イメージの固定化・最大化を招き、かえって想定にとらわれることに繋がるとの重い指摘です。ただ、ここで問題なのは知識偏重であって、正しい知識を得ることの重要性は震災前後で何ら変わらないと思っています。あまり想像したくはありませんが、東日本大震災で目撃したのと似たような光景を、不幸にも私たちはいつかまた目にすることがあるかもしれません。それは南海トラフ巨大地震か、首都直下地震か。それとも現時点では想像もつかない別の地震か。いずれにせよ、再び「想定外」を安易な言い訳にすることだけは絶対に避けたいものです。「想定外」を生き抜くための知識や考え方を習得し、ニュースや番組を通して常日頃から視聴者に提供できるよう努めたいと考えています。

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